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山口地方裁判所 昭和30年(ヨ)98号 決定

申請人 防長自動車株式会社

被申請人 防長自動車株式会社労働組合

主文

被申請人組合は申請人会社の行うバスの発着、運行及びその附随業務を実力を以て妨害してはならない。

右禁止は言論による説得行為並びに団結による示威に及ぶものではない。

申請人の委任する山口地方裁判所執行吏は本命令の趣旨を公示するため適当な方法を採らなければならない。

(注、無保証)

理由

申請の趣旨並びに理由は別紙(一)、(二)記載の通りであり、申請人の提出した資料によれば右主張の事実関係は一応疏明される。

被申請人組合が年末手当の支給等を要求してストに入り、ピケツトにおいて、被申請人組合の組合員以外の申請人会社従業員(バス運転手、車掌等)のなすバスの発着、運行及びその附随の業務につき言論による説得行為又は団結による示威の方法によつて心理的影響を加えながら、しかもその自由意思によつてその発着運行等を決し得る余地を残す程度に働きかけ、これによつて会社の業務運営に打撃を与えることは違法ではないが、組合によるピケツトが右の程度を超え暴行脅迫等の実力行使によつて右の業務の遂行を阻止することは右限度を逸脱する限りにおいて許されないといわねばならない。しかして前述の通り組合のピケツトにおいて暴行脅迫等の越軌行為が継続現存する上、疏明によれば今後もその生起の可能性の濃厚であることが認められるから、会社としては組合の適法性の範囲を逸脱した右妨害行為の排除を求めることができるわけであつて、特に防府天満宮の大祭日に当り地方からのバス利用者で混雑する際において、かかる違法な妨害行為の繰返されることを緊急に排除する必要があるといわねばならない。

以上の次第であるから申請人会社の本件仮処分申請を相当と認め、主文の通り決定する。

(裁判官 河辺義一 藤田哲夫 野間礼二)

【参考資料】

仮処分命令申請書

申請人 防長自動車株式会社

被申請人 防長自動車株式会社労働組合

申請の趣旨

一、被申請人組合員は申請人の行う自動車の出入運行等申請人会社の業務の執行を実力をもつて妨害してはならない。

二、執行吏は右の趣旨を周知せしめる為め適当の方法を講ぜねばならない。

との仮処分を求める。

申請の理由

一、申請人会社(以下会社と称す)は資本金七千二百三十一万円の株式会社であつて、山口県下の大部分の地域及び広島、島根両県の一部分の地域に亘り定期運行の路線を以つて営業するバス事業等を経営することを業務とし、広島、徳山、山口、柳井、防府、小郡、萩及び吉部の各営業所を有し、その従業員総数は一、〇〇五名である。

二、被申請人組合は、昭和三十年に会社の従業員中小郡、防府、萩及び吉部営業所に所属する従業員の大部分をもつて組織する労働組合であつて組合員数は約四百名である。

三、被申請人組合は現在山口県地方労働委員会に於て資格審査中であつて、未だ登記を了しておらない。

四、申請人会社の従業員中徳山、柳井、広島の営業所に所属する従業員の大部分及び山口営業所に所属する従業員の一部は昭和二十四年以前から別に防長自動車徳山地区労働組合を組織して居り其の組合員数は約四百五十名である。

五、争議の経過概要

1、被申請人組合は本年十月廿九日会社に対し年末手当等の支給を文書を以つて要求し之に対し会社は十一月九日及び同月十二日文書を以つて回答し其の後数次の団体交渉を持つて居たが十一月二十七日午前二時三十五分遂に決裂した。

2、これより先十月廿四日午前十一時開催せられた会社第四十一期定時株主総会に会社株主でない被申請人組合の執行委員長湯原新一、同副委員長藤原務、同執行委員阿武只雄、同山根政人は株主の委任状を提示して株主総会に出席を要求したが会社の受付係から会社定款第廿四条によつて入場を拒絶せられるや山根政人を除く三人は会社の受付係並に当時事務の指揮に当つていた西岡総務部長に対し不当呼ばはりして大声怒声を発して威迫し湯原新一は遂に同部長を突き飛ばす様な挙に出で藤原務、阿武只雄の両名は同部長を取囲んでこれに勢を加える乱暴をしたので会社は十月廿六日就業規則に照し湯原新一及び藤原務に対しては各七日間の出社停止阿武只雄に対しては三日間の出社停止の懲戒処分に処したことに対して被申請人組合は不当労働行為として会社を相手として山口県地方労働委員会に救済の申立をして居る。

3、被申請人組合は前記二事件に対する要求貫撤の手段として争議行為を行はんとして労働関係調整法第三十七条に依り十一月十一日労働大臣及び中央労働委員会に争議行為の通知をした。

4、一方防長自動車徳山地区労働組合も十一月四日年末手当等に関し要求書を提出し之に対し会社は十一月九日文書を以て回答し数次の団体交渉により十二日遂に交渉妥結を見た。

5、被申請人組合は十一月二十四日文書を以つて同廿七日及び廿八日の両日全面スト及び時限並に部分ストを行う旨会社に通告して来た。

六、被申請人の行動

1、被申請人組合は十一月二十三日会社との団体交渉に際し、トラツク三台に組合員数十人を乗せて会社事務所前広場(奥地行バス操車並に乗車場)に繰り出し、スクラムを組み又は組合員をしてバス発着の操作を妨害せしめ之を制止しようとした被申請人組合に所属しない従業員に対して多数の力を以つて暴力を振う等計画的に会社の業務を妨害した。

2、十一月廿七日午前五時申請人会社は山口市日野デイーゼル会社々庫に格納してあつた申請人会社所有のバス七台を小郡及び秋穗に回送せんとしたところ被申請人組合員及び応援者等約百名位が前に座込みピケを張つて出ることが出来ない様にして居る(午前九時半現在)。

3、同日午前六時頃から山口営業所湯田車庫にも同様の座込が行はれバスは現在運行不能である。

4、同日徳山発湯田行一便バスは湯田に於て同様の妨害に遇い復路運行不能に陥つた。

5、同日防府営業所に於ても駅前駐車場に於て同様の妨害によつて西の浦線等一部運行不能に陥つて居る。

6、同日早朝から萩営業所に於ては柳井及び徳山から救援に赴いた車輌及び従業員が被申請人組合員等のピケの為に出入及び運行不能に陥つて居る。

7、同日吉部営業所に於ては同様被申請人組合員等の妨害によつて三谷行始発以後運行不能に陥つて居る。

七、仮処分の緊急性

申請人会社は前述の様に広地域に亘り公衆の交通運輸の業務を営んで居るものであるが、被申請人の同盟罷業に対し公衆の迷惑を避けんが為めに同組合員以外の従業員をもつて出来得る限り業務を継続せんと努力して居るが前項に詳述した様な被申請人等の不法な実力によつて会社業務の遂行が妨害せられて居る。会社は其の業務の公益性に鑑み一刻も業務の停廃を許さないので会社業務執行の妨害排除の本案訴訟を提起する準備中であるが、前述の様な会社業務の性質上の公益性と緊急性とに鑑み仮処分命令を求むるのでなければ列底其の権利を保全することが不可能であるので本申請に及んだ次第である。

疎明方法(省略)

右申請します。

昭和三十年十一月二十七日

申請人代理人 小河正儀 外一名

山口地方裁判所 御中

(別紙省略)

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